優しいおばあさんの顔

kasumi-maki2007-05-02

<エッセイ>
 先日Hさんを訪ねた時のことです。Hさんは84歳。いつもかくしゃくとして、きりりとした、非の打ち所の無い方です。 色々な人生を歩んで、その年になられました。80歳を過ぎてから、アメリカに住む娘さんに独りで会いに行ったこともあります。それが先年夏の雨の日、歯医者さんへ行く時、横断歩道を渡りきらぬうちに、車にはねられました。気丈なだけあって、救急車に乗せられた時は、「私は青信号で渡りましたよ。私は○○病院の診察券を持っています。」と言って自分のかかりつけ医に運んでもらう事が出来ました。退院後、自宅療養中で、回復まであと1歩の時のことです。Hさんから「相談があるから」とのことで立ち寄りました。相談内容は事故処理・損害賠償についてでした。その内容は同居の息子さんにたづねたら、わかるものでした。
話を一通り聴き終えて私はお茶をいただく前に、
「Hさん、お昼食べたかしら?おいも蒸かしてきたの。まだ、あたたかいわ」と言ってサツマイモを彼女に差し出しました。時計は午後1時半を回っていましたが、
「お昼食べてなくて良かった。嬉しいわ」といってサツマイモを手に取られました。
人前では気丈で、プライドが高く、時々毒舌のあるHさん、いつもの表情は硬いのですが、そのHさんが「おいしいわ」と素直に感謝の言葉。目には涙が溢れていました。「あなたには、チョットしたことかもしれないけど、受ける者には、本当に身にしみるのよ。」とポツリとおっしゃいました。
 その時のHさんの表情は、なんともいえない穏やかな,険のとれれた、優しいおばあさんの顔になっていました。