宮沢賢治詩集から

kasumi-maki2009-03-22

風の強いどんよりとした、なんともいえぬ日だった。
だが、確かに「春」はそこまで来ている。もう冬のコートも着ていない。 
春にふさわしい詩でも味わおうか。


    春(作品第519番)
春烈しいかげらふの波のなかを
紺の麻着た肩はゞひろいわかものが
何かゆっくりはぎしりをして行きすぎる、
どこかの愉快な通商国へ
挨拶をしに出かけるとでもいふ風だ
   ・・・あをあを燃える山の雪・・・・
かれくさもゆれ笹もゆれ
こんがらかった遠くの桑のはたけでは
煙の青いlentoもながれ
崖の上ではこどもの凧の尾もひかる
・・・・・ひばりの声の遠いのは
     そいつがみんな
     かげらふの行く高いところで啼くためだ・・・・
ぎゅっぎゅっぎゅっぎゅっはぎしりをして
ひとは林にはいって行く


  <注釈:「lento」は「緩やかに」の音楽用語>