死の瞬間から その5

kasumi-maki2007-02-08

世界は、ためらう心の琴線の上を、悲哀の音楽を奏でながら、疾走していく。タゴール『迷える小鳥』44節
第4段階 抑鬱
◇患者Hが面接中に話した言葉。
「これまでずっと、私は妻とのことで心残りがあるということ。そのことを後悔してきました。妻と心を通わせれなかったことです。
「生きてさえいればいいというものではないでしょう。大切なのは、人生の質、生きる理由ですよ。」
◇病院牧師の仕事振りについて問われたら。次のとおり答えます。「私は夜中こそ牧師を必要とするのに、夜勤の牧師がいないことを知ったときは唖然としました。」
抑鬱は2つある。1番目は『反応的抑鬱』誰も手を貸してくれない。自分の役割を果たせない。経済的生活上の問題などが原因。
2番目は『準備的抑鬱』この世を去る永遠の別れのため準備をしなければならないということに苦悩があると。この時期は見舞い客はかえって乱れさせてしまう。
◇H婦人が夫の医師に言われるまで、自分が夫について「夫が亡くなっても、生活はこれまでとほとんど変わりなく続けていくと思います。」と淡々と話した。それを聞いた医師が激情した。
「ではあなたは、彼が亡くなっても惜しい人ではないのかもしれない。彼の人生を振り返るとき。そこにはあなたの思い出に残るようなことは何ひとつないのかもしれないですね。」H婦人は不意に医師の顔を見て、感情にあれた声で、叫ぶように言った「なんてことを。。。夫は誰よりも誠実で、信頼のおける人でした。。。」その言葉で、枕に青白い顔を深々と埋めた病人が、その目をパット輝きを見せた。彼女は夫をプラス面で認めて、誠実に話した時、初めて互いの間に人間の通い合うものを感じたのだった。人を尊重する事こそが、お互いの生き死にに関係なく、通じ合えることなのだとつくづくと思った。